ポっと出に敗れる

「ふわふわラジオ」を連載しています。

第十八回ふわふわラジオ(3)

 

「信頼かー」

「お、なんです?」

「いやさ。あたしのこの、他人を完全には信じられないって感じはさ。生まれたときからこうだったわけじゃないのよ」

「そりゃあ。ああ、なんかきっかけがあったって話ですね?」

「きっかけというか、変遷? 幼稚園生だとか小学生だとか、狭い世界でいたうちは、友達いっぱいいてさー。誰とでも物怖じせずに話せたし、多分、みんなの中心にいたって言えるくらいだったと思うの。同年代の子供もそうだし、大人相手でもがんがん行ってさー」

「怖いもの知らずって感じですね」

「そう。知るって怖いわね。中高の頃に、所謂女の嫌なとこってのが目に付くようになってさ。陰口とか、仲間外れとか。だから男友達とつるんでみたけど、そっちだって普通に言う人は言うじゃない?」

「そうですね」

「そうやって嫌いな人が増えていくと、数少ない仲良くなれた人に今度はあたしが愚痴ったりしてさ。あーなんか人間ってみんな怖いなーって思ったのは、このあたりからかなって」

「自分で嫌悪してたような奴と同じことしてしまった罪悪感ですか」

「それも勿論あるし、なんてーか、何気ないなって。その人にとっては何気ない行動とか、言動とか、あたしが嫌いだと思ってた人たちもそんな程度の感覚だったんだろうなって。そんな程度のことでも、人には嫌われることがあるんだなって」

「自分もそうなるかもしれない、と?」

「そー。別にさ、知りもしない奴にどう思われてもいいのよ。ネットで誹謗中傷されようが笑いながらレスバするし、ラジオのリスナーに文句言われるの、はちょっと悲しくはなるけど、まー多分切り替えられる。けど、あたしが大好きで、嫌われたくない人に嫌われるのは、耐えられないじゃん?」

「ラジオはリスナーと配信側で一緒に作っていくものとか言ってたのに切り替えられちゃうんですか」

「そんなん、そもそもが好きでいてくれるうちは共同制作の仲間だけど嫌われたら他人になるって話でしょーよ。あたしも、リスナーも、どっちかが合わないなって思ったら離れていって、また別の何かを見つけるの。それがたまたまあたしの、あたしたちの番組だから離れていく方がリスナー固定になってるだけでさ」

「まあ、そうですね。誰かと一緒にやるためのラジオではなくて、ラジオを一緒に作るための誰かとの繋がりですもんね」

「けど友人関係と、あと家族はそうもいかないでしょ。目的の為に集まってきた有志連合なわけじゃなくて、あたしとその人が一緒にいるのが前提で、じゃあ何すっかって話だもん。嫌われて離れていったら、そこで全部終わりなわけよ? 慎重にもなる」

「まあ、分かる気はしますよ。僕も、どんなに仲良くなっても、仕事の同僚と友達ってなんか違うなとは思っていましたから。寧ろしっくりきました」

「ま―そんなわけで。人間嫌な部分って結構あるなと思ったから、あんまり人間関係広げなくなったのと。友達に嫌われたくないなって思ったから、相手に対しても自分の行動に対しても、慎重っていうか、疑り深くなったのと。そんな感じだなー」

「僕らの世代はそうだったと思うんですけど、自分がやられて嫌なことは他人にはやるなって教えられませんでした?」

「あー、言われた言われた」

「僕ずっとあれ守っていたつもりだったんですよ。けど今って特に多様性の時代じゃないですか。するとですね、なんと、僕は別に嫌じゃないことが嫌な人がけっこういるんですよ!」

「時代の問題か? それ」

「いやまあ言い訳なんですけどね」

「まーでも、じゃあどないしたらえーねん! ってのは分かるよ。だからさ、信頼って結局、お互いを深く知らないとできないことだと思うんだよね」

「そうですね」

「時間をかけて、一緒に話したことで考え方を知り合って、何気ない日常生活から価値観をすり合わせて、一緒にはいなかった時間の話で気が合うかを測って。お互いに小刻みなテストをし合っていった末にあるのが信頼だと思うのよ」

「テストって言い方するとなんかすごい堅苦しい感じですけど、まあ、分かります」

「何が言いたいかというとね」

「はい」

マッチングアプリで交際相手を探すのは難しいのよ」

「はい?」

「時間の積み重ねがないのにどうやって信用しろって言うんだよ。顔は見えないながらもゲーム内で苦楽を共にしたオンゲー仲間とのオフ会とは話が違うんだっつの。アプリに入力された情報だけを頼りに気が合いますね! とか言っていきなり会うリスクを考えたことがあるんか? こちとらか弱い美人やぞ」

「か弱い……?」

「大体その情報欄、趣味だのなんだのに本音を入力するタイプかも分からんじゃろ? ちょっと見栄張るタイプだとか、卑屈なとこあるから気持ち上方修正して読んだ方がいいかなとか! そういうのを知る時間こそが本来必要なのよ! そこまで考えてマッチングしてくださいますかね!?」

「あー、もしかして後半ずっと、この展開に持ってく為に話展開してました?」

「してたよ!」

柴「なんかすごい力抜けました」

「何言ってんの、他人事じゃないでしょ? 時間は戻らないものなんだから、信頼関係を築いてきた人ってのは今更増えたりしないのよ。勿論、これから誰かと信頼を深めていくことはできるけど、お付き合いだのなんだのまで話が行くほどってなるとあたしら幾つよ?」

「人に寄るとは思いますが、28になって今からと思うと確かに少し焦りはあります」

「でしょ? それなのに、その時間の中でまあこの人なら信用できるかなって思えてた男にはもう相手がいる! あっちも! そっちも! ひとまず女同士で相談でもと思っても家族作ってて会えない! あたしは一人になっていく! どーすんのって話よ!」

「そういうめんどくさい感じだからみんなに置いてかれたんじゃないですか?」

「趣味欄にはブーメランの投擲が得意って書くのをおススメするわ」

柴「えっ、いや、僕はめんどくさくないじゃないですか。そういうのじゃないですよ、単純に、シンプルに友達が少なくて彼女ができないだけです!」

「そっか。ごめんね」

「泣きます」

「強く生きて」

「実際、上崎さん、結婚したいんですか? 大事な友達ですら全面的には信用できないってんなら、一番嫌われたくない家族を持つことはかなり大変になるでしょう」

「そりゃー勿論、不安はあるよ。でもさ、寂しいじゃん」

「寂しい、ですか」

「みんな家族持って、友達の中であたしの優先順位が下がって。いや、家族が上に来ることで相対的に、だね? 兎に角それで、少しずつ一人になってってさ。親もきっとあたしより早く死ぬし、そうなったら、寂しすぎるよ。だからあたしも家族を持ちたい」

「それがどれだけ大変でも? 常に気を使ってしまって、疑って、そんな自分が嫌になってしまうとしても?」

「そーだね。そもそもあたし、信頼できないってだけで、したくないわけじゃないもん。それこそ、それまでの付き合いよりもっともっと長い時間をかけて、信頼できるようにしていきたいな」

「そうですか」

「よし! いい感じにまとまったな!」

「寧ろ話題がとっ散らかってそのまま爆散した感じがするんですけど。まあ、時間ですし今日は終わりにしましょうか」

「おたより、お待ちしています! それではまた再来週、ばいなーら!」

 

(ED)

(曲)「番組テーマソング(22/7)」

 

 

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