ポっと出に敗れる

「ふわふわラジオ」を連載しています。

第十六回ふわふわラジオ(2)

 

「話題替えとこっか。リスナーがぞろぞろと離れていく音がする」

「僕には聞こえませんが」

「病院」

「まあいいでしょう。ところで上崎さんって、結婚願望まったく無いんですか?」

「えー。別に、したくないわけじゃないよ」

マッチングアプリってあるじゃないですか」

「あるね」

「使ったことあります?」

「それはない」

「僕も無いんですけど。あの、顔写真全国に公開するの、嫌すぎませんか?」

「あー」

「僕FacebookとかいうSNSも理解できなくて」

「言いたいことは分かるんだけどさ」

「はい」

「名前も顔も公開して、現在進行形で更なる個人情報を発信するお仕事をしている柴山さんにだけはみんな言われたくないと思う」

「いやー、逆ですよ。寧ろ僕だから言えるというか」

「は?」

「僕は仕事で、会社に守られて顔も名前も公開してるわけですよ。なので炎上したり、直接的になんか被害にあったりしても、無事でさえいれば後のことは会社に責任取ってもらえるわけですよ」

「あー」

「炎上したら僕も勿論ですが会社が謝るでしょう? 男性だとあまり多くないかもですけど、なんか急に女性人気出てストーキングされたりしても事務所に対応をある程度任せられます。ボディーガードなんか雇うことに……ならないでしょうけど、まあ、なったらお金出してもらえるでしょうし。ファン……もいないですけど、いたらそことの関わりも管理してくれたり。でもそういうの無いわけですよ、一般の方々って」

「ない、ってことは本当に万が一、そういう状態に陥ったら全部自分で解決しなくちゃ駄目ってことよねえ」

「寧ろyoutuberとか、個人でも仕事としてやっている人なら違うんでしょうけどね。例え家を特定されてもどうにもならないくらいセキュリティに気を使ったり、ファンとの関わりも仕事の一環としてできたり」

「けど例えば、本当にただ婚活のためだけにマッチングアプリを利用する美人さんや、軽い気持ちで顔写真を上げた若いインスタグラマーとか……ノウハウも無い中でそれが本気でただのファンのアプローチなのかアブない奴なのか判断しなきゃいけないわけだからね」

「勿論、現代社会でインターネットに触れない生活は無理ですし、ネットを介さなくても人との繋がりはあります。それら全て疑ってるようじゃ生活なんてできないですが、……なんていうか、溜まり場ってあるんですよね」

「言いたいことは分かるよ。狙いが分かるってことでしょ?」

マッチングアプリに登録する人はパートナーを求めているんだから、優良物件なフリをして近づけばいい。SNSだって個人情報や趣味嗜好が書き込まれていることが多いんですから、興味の引き方も分かりやすい……どうすれば距離を近づけて、騙せるかのマニュアルが整備された場所みたいなもんなんですよね」

「あたしも昔、周りの女友達がSNSとかにばんばん顔写真上げてるの不安になったなあ。可愛い子だと特にね、目に見えない危険は勿論、同級生の男子とかに自分の写真無償提供してるんだよ? 要はさ。ちょっと理解できなかったかな」

「上崎さん注目されるのも性的に見られるのすら嫌じゃないんじゃ?」

「直接向けられる視線だから意味があるんでしょ。写真のあたしでシコられてもなんもいいことねーっつの」

「全国放送ですよ」

「言い過ぎました」

「友人間でと言えば、あれ嫌でしたね。こっちはハンドルネームでSNSやってんのに、友達は普通に名前で僕を呼んでくるんですよ」

「ああ、分かるわ。あたしはあれだ、友達が名前でSNSやっててさ。ニックネームとかも無いから、なんて呼べばいいんだろう? って。ハンネ設定するのがマナーだった時代から来てないからなー」

「まあ僕ですらギリその世代か、くらいだと思いますけど。漠然と、嫌でしたよね」

「少なくとも、あたしたちはそう教えられて育ってきたよねー」

「秋田とかヤバそうです」

「それはもう。あたしの親は『ネットをやってる』って曖昧な理由でめっちゃ怒ったことあるよ。SNSがどんなものかすら、こっちが教えないとよく知らないのにね」

「それだけ危険なものだって感覚が根付いてるんでしょうね」

「でも実際さー。むかーしむかしと何も変わってないよね? 危険であることは」

「そりゃあもう。法の整備もあまり進んでないですし、大体法律がどんなに発達したところで『できる』ことに変わりはないですからね。そして、できる人がいるということはやられる可能性があるってことです」

「ヤバいよね、通称『特定班』の方々。凶悪事件だとかが起こると、何処からともなくネット掲示板に現れる猛者集団」

「見えないだけで普段からいるわけですからねあの人たち。不安になりません? いつ自分の情報全部公開されるんじゃないかって」

「あたしは割となるよ」

「ですよね」

「大人のネットリテラシーが低くなってることがまず一つ、ではあるだろうけど、そういうの学ぶ前からネットと繋がって生きる世の中になってるのが次にあるよね」

「普通に考えてスマホ持ってネットサーフィンして芸能人がSNSやってるの見てじゃあ僕も! ってなったら名前で登録しちゃいますよね」

「学校教育で扱わないとこだからねー。親がちゃんと注意して見てる家でないとリテラシーを学べないし、周りの子供がリテラシーを学んでる子たちじゃないと真面目にやる子が孤立するって大問題もありそう」

「LINEに即返信! なんて謎ルールがクラスでできて、家では決まった時間にしかスマホを見ないおりこうさんが叩かれるわけですね。マジでクソ」

「本当に教育がさ、時代に併せて変わっていかないとどうにもなんないわよね」

「公的機関は変化のスピードが遅いですからねえ」

「あたしもよく役所の人と仕事するけど、いい人たちばっかながらそこだけは不満に思う時あるね。即断即決ができない」

「意思決定する人と現場で手を動かす人が別ですからね」

「かといって緊急想定マニュアルが整ってんのかといえば、そういう動きでもないからなー。ちょっと厄介」

 

(CM)

 

 

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