ポっと出に敗れる

「ふわふわラジオ」を連載しています。

第二十五回ふわふわラジオ(2)

 

「では、届いているおたよりを見ていきましょうか」

「こういうのもアレだけどさ、届いているのね?」

「まあ、コロナ禍でやることもないでしょうしね。おたよりでも書いてやるかあってなるんじゃないですか?」

「そんなもんかねー」

「PN『二十代の四十肩』さんからのリクエストです、ありがとうございます」

「それは四十肩とは言わないんじゃないかなー」

「『上崎さん、柴山さん! こんばんはー!』」

 

二人「「こんばんはー」」

 

「『屋根の雪降ろしのし過ぎで二十代なのに四十肩になった者です! かなしーい!』」

「軽っる、かなしーい! じゃないが。てか今日雪スペシャルかなんか?」

「『お二人に聞いてもらうのは恐縮ですが、こんな世界もあるんだよとリスナーの皆さんにも聞いてほしくておたよりを送りました。私の職場についてです』」

「おっ、愚痴メールだな?」

「『雪国にある私の職場は、会社で事務所と駐車場を持っています。雪がたくさん降った日には、広い駐車スペースには除雪業者が入ってくださるのですが、社用車を止めている周りと玄関近くに関してはスタッフが雪かきをしなくてはなりません』」

「車庫に屋根無い会社はねー、雪国は辛いのよね。わかるわかる」

「『まあ、それは仕方無いのです。雪国の宿命と言えるでしょう。一番の問題は、その事務所近くの雪かきを始業前にやらなくてはいけないということなのです!』」

「うっわ、最悪じゃん」

「『上からの指示というだけなら、私は戦おうと思いました! 始業後でいいじゃないかと! しかし、調べてみると、どうやら過去のお客様からクレームがあったらしいのです。朝早くに来たら事務所前が雪に埋もれていて驚いたと。そんな、じゃあどうしろって言うんですか!』」

「むー、めんどくさいのね」

「ホントですねえ。『しかもですよ、しかも!』」

「おっと、まだあるのね」

「『当番制で始業十五分前から、と決めて行われているのですが、先日会社の先輩に怒られたんです。私の上司はお家の都合で早めに出社する方で、折角だからと早めに雪かきを始めてくださるのですがそれを見て、お前は上司が来るより早く除雪を始めるべきだろと。お陰で当番も開始時間もあって無いような状況になってしまっています』」

「げー。げーとしか、言えないわ。それは」

「『この冬で雪国そのものがかなり嫌いになってしまいました。上崎さんも雪国住まいだったと思いますが、こういった悩みはありませんでしたか?』とのことです」

「うちも除雪は自分たちだし、始業前だから大分しんどいわ。けど残業代出るからしょうがないなって気持ちに強引に持ってってる。もうそう考えるしかないのよねこっちは」

「あー、そうですね。二十代の四十肩さんのとこはそれも無いんでしょうか」

「分かんないわねー、そこまで書いてないから。でも多分けっこうあると思うよ? こういう会社」

「他にも知ってらっしゃるんですか?」

「まあ、公共の電波では言いにくいんだけど、幾つかはね。なんかさー、さっきも軽く触れた話題かもだけど、もう雪国の人たちにとっては除雪って生活の一部なのよ」

「ふむ」

「だからあたし達と感覚違う部分はあるのかなって。会社の除雪はあたし達からすれば仕事の一部なんだけど、生活の一部派の人たちからすれば多分仕事するための準備の一部なのよね、多分」

「あー、そういう考え方の人、多そうですねえ。その点は除雪関係なく文句ありますけど」

「あたしも。前に話したことあったっけ? 通勤にも手当出してほしいくらいの過激思考なの」

「ですかね。僕も割とそれです」

上「だって、日中にだってさ。雪降って積もれば除雪するのよ? 勤務中にやっていいことなら仕事の一部になるでしょ、だったら朝も勤務時間にカウントしろや当たり前だっつーの」

「そういうことなんですよね」

「まー残業代出されると文句言えないんですけどね!」

「というか、結構衝撃だったんですけど、やっぱクレーム来たりするんですか」

「それはあたしも驚いた。お役所とかなら来そうだけどね」

「ええ?」

「いや、もちろん、お役所なら始業前にやって当然だろってことじゃなく、軽い気持ちで言う輩がいそうだなって」

「あーでも当然だろ思考もいそうですよねえ。というかあそここそ、店舗型じゃないのに始業時間おかしい施設の典型じゃないですか?」

「職員の出勤時間と開庁時間同じっていうね? わかるわかる。うちも似たようなもんだけど。まー夏場はそれで問題ないからねー」

「ううむ、雪国の過酷さが思った以上でした」

「もう東京行こうかなあ」

「都会嫌いの上崎さんがこう言うくらいですからね、恐ろしや」

「というかそもそもの問題ってその周りの連中じゃないの? この悩み」

「うーん、間違った指摘かと言われると。まあでも当番と時間決まっててなら理不尽ではありますか」

「早めにやっちゃうその上司もね。親切というか、いい人なんだろうなーってのは分かるんだけどさー。あの、ほら。確かボランティアの話であたししたことあると思うんだけど」

「あーっと、覚えてますよ。無償でやってしまう人がいることで、発注元が金払わなくていいと思うようになったり、寧ろ金とるのががめついみたいなイメージになるって話」

「そうそう。労働には対価を、が当たり前じゃなくなるからね。いい人って、本当にいい人なんだろうけどさ。その人の行動が、よくない人たちに与える影響ってのをもうちょっと自覚してほしいなーなんて、あたしみたいなひねくれた人間は思っちゃうのよね」

「悲しい話ではあるんですけどね、それも」

 

(CM)

 

 

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