ポっと出に敗れる

「ふわふわラジオ」を連載しています。

第二十回ふわふわラジオ(3)

 

「社会人になってからさー」

「はい」

「理不尽だな、って感じる機会が凄く増えたのよね」

「理不尽、ですか」

「うん。学校ではさ、大学も含めて、正しいことを教わってきたのよね。正解が既に出ていること、これはこうですよって説明できること。社会に関しても、こういう制度がありますよって。今の社会はこうなっていますよってだけ。思い返せば先生の雑談で、実際はこうだけど実態はなかなか……って話もあった気はするけれど、テストの為に覚えるのは答えが一つしかないものだったから」

「ふむ」

「それが、社会に出たら突然変わったのよ。法律はこうですよ、ルールはこうなってますよってそれは変わらずある。でも、そうね。『解釈』ってものあるじゃない? 今までは法律の勉強でちょっと触れただけのその概念が、日常の至るところに出てくるようになった気がする。マニュアルがあるのに、その通りに行動したら融通が利かないって言われたり。同じような仕事なのに、時と場合と場所と人によって出る結論が全然違ったり。そんな時、学生上がりに毛が生えたような私としては、何度も理不尽だと感じていたわけよ」

「確かに。それこそ子供の頃の僕たちは、本当に守られていたんだなと思いますよね。学園祭なんかでお金を使うことになっても、先生とのやり取りだけで済んでいました。それが今や、部署の上司とやり取りして、組織の上とやり取りして、その上で実際に使うぶんをかき集める……まあそこまで行くと自分でやることはあまり無いですが、プロセスの多いこと多いこと」

「こう言っちゃなんだけど。学生当時は、先生なんてって悪く言ったり、信用できなかったりなんてことも、まー正直、あったんだよね。でも違うわ。社会で仕事をしていての、現場から離れたとこにいる上司とか、スポンサーに比べたら、学校の先生なんて家族みたいなもんだったわ。もうさ、元々人を信用しないたちだけど、周り全部敵に見えるのよ最近」

「それは一応同意しないでおきましょう。この番組僕の上司もチェックしますから。それで?」

「いやね。これだけ毎日理不尽に向き合い、理不尽とじゃれ合い、理不尽に抗って生きてるとさ。選挙で自分の意見が必ずしも通らない、って程度の理不尽、そよ風に感じるなっていう話よ。寧ろ自分の意見が反映される可能性あるだけ良心的だわ」

「お、おお。悟ってますね」

「そーだよ、良心的だよ! 一応管理委員会の下で、ルールに従って当選者が決まるのが選挙だもん! 上司の考え方や、スポンサーの利益で長年の準備が覆されたりしないんだよ!? 最高じゃんなあ!」

「上崎さん仕事でなんかありました? 荒れてますね?」

「いっつもあるよ! ずっとあるよ! まーでもそれは置いといてさ! はー、はー。えーっとなんだっけ」

「なんだっけも何も、CM明け突然話し始めたから僕まだ何の話か分かってないですよ」

「そうそう。だからさ、この理不尽な社会になれた人にとっては、選挙ってのは然程理不尽でもないし、無力感もそんなんでもないよなーって話。逆に学生とか、新社会人の皆さんからすると、自分一人が行ってもなーっていう気持ちになるんじゃないかと思って。だからこそ、関心が低くなってんのかなと思ったのよ」

「成程、そういう話でしたか」

「本当、社会は理不尽だよ」

「やっぱメイン論点そっちでは?」

「そりゃ、あたしの不満はそっちがメインだよ。選挙で思い出した感じ」

「大変ですねえ。僕もまあ、分かる部分多いですけど」

「なんか、曖昧なことが多いのよね。勉強では数学が好きだった人間としては、ここまでただ一つの答えがないことばっかりだと狂いそうになるわよ」

「特に、多様性の時代ですもんね。人の数だけ考え方があって、答えがある」

「まあ、だからこそ話が戻るんだけどさ。だからこそ、国の方針が、全体の方向性の持つ重要度が高まっていると思うのよね。自分の意見が通るか、思うとおりになるのか確信は無くっても、意思表示をしておくことは大事だと思うな」

「なんかいい感じの結論に着地できましたね。あの愚痴から始まって、まさかの」

「ね。まー行き当たりばったりで思ったこと喋ってんのはいつも通りよ」

「うーん、時間も微妙ですし今日は最後まで選挙トークでいきますか。僕昔から疑問なんですけど、選挙カーってあれどこに需要があるんですかね? クソうるせえんですけど」

「さあ。でもあれさ、テレビとかでさ。選挙カー乗ってきた候補者が、降りて、家の前とかでおじいさんおばあさんと握手し合って話してるシーンとか映るよね。すごいよねあれ」

「すごいとは? 上崎さん的には、マメな候補者だなあって印象受けるわけですか」

「いやクソうぜえなって」

「やっぱり?」

「うーん、昔の人たちの価値観からすると普通なんだろうか」

「特に地元議員とか、市長選とかだと人との繋がり重視だったのかもしれませんねえ。癒着とも言う」

「公務員の話とかも、昔の聞くとすごいもんねー。今とルールは変わんないはずなんだけど、おかしいなー?」

「やっぱり、政治家とか上のほうの人にも一般人の監視が必要なのかもしれませんねえ。公務員の健全化は市民の監視というか、関心が高まったからだって気がしますし」

「関心の高さとな。戻ってきたね、投票に行こう! って話に」

「関心の高さを示して、お前たちを見ているぞってプレッシャーを議員さんにも与えていきたいですね」

「一億総監視社会?」

「なんか聞いたことありますね、それ。前にどっちか言ったことありましたっけ?」

「多分ね」

「そのために必要な……ああいいや、総監視社会のほうじゃないですよ? 一般人による監視のためには、癒着のない、健全なメディアが必要なわけですけど」

「あたしはノーコメントだからな」

「僕も投票の誘導のつもりなんてありませんよ、今のメディアに全く癒着がないなんて思ってないですし」

「柴山さんの上司聞いてるんじゃなかったっけ?」

「まあほぼ公然の秘密ですもん、メディアに限らず。政治家にも限らず、プライベートな繋がりがある人と一緒に仕事をするのが普通……個人対個人なら兎も角、組織としてはこの価値観から変えていかなきゃいけないと僕は思っていますよ」

「これもあくまで柴山さんの個人的な感想ですからね? さて、念押ししたところでお時間です」

刀使ノ巫女ととじともよ永遠なれ」

「まだ言ってるし。じゃああたしも、みんな投票に行きましょー!」

「グッダグダだなあ、主に僕のせいですけど。あ、おたよりお待ちしています! それではまた次回」

「ばいなーら!」

 

(ED)

(曲)「番組テーマソング(江藤可奈美(本渡楓)、十条姫和(大西沙織))」

 

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