ポっと出に敗れる

「ふわふわラジオ」を連載しています。

第二十三回ふわふわラジオ(3)

 

「あたしの地元にもさあ。古い建物がね、あるのよ。いっぱいね」

「まあ、秋田ですからねえ」

「は? 秋田舐めんなや」

「理不尽」

「で、やっぱりさ。どこにでもいるのよ。その建物には価値があるから保存すべき! っていう一大戦力が」

「物の価値は人それぞれ、感じ方が違いますからね」

「考えるに、文化遺産とか、古民家カフェとかが実際ウケてるのが問題なのよね。いや、それ自体はいいのよ? あたしも好き。よく行く。けどそれを盾にただ古いだけのものとか、バランス的に明らかに邪魔になってる物を残したがる奴がさ、いるわけなのよね」

「なんと言いますか、全てがケースバイケースなんですけどね。あそこの古民家カフェ大人気らしいぜ、あの建物は文化遺産登録らしいぜと。じゃあこっちはどうなのかなってのは、また一から考えるべきもので。Aが上手くいってもBには何の関係もない、特に歴史系はそういう傾向が強いんですけどね。Bの信者にとっては関係ないんでしょうね」

「そいつらにとっても実は、他の例って関係ないからね。建物Bは絶対有効利用できる! から始まって、その根拠ないかなーって探して古民家カフェAを見つけただけなんだもん。最初のとこに根拠はないのよ。だって絶対上手くいくから」

「論理的じゃない思考って一番強いですよね。そして怖い」

「そもそもてめーの思い出を市や国にとっての価値だと思ってる人が上にいるの既にヤバいわよね」

「なんかそういう言い方されると物凄くヤバく聞こえてきますね。まさか、本気でそんな風に思ってるわけじゃないでしょう?」

「流石に信じたいけど、それならそれで、ほんとは価値なんてないと思ってる物を嘘でごり押しできそうな権力が存在しているっていう別のヤバさに繋がるんだよな」

「特に田舎ってそういうイメージありますね。イメージですけど」

「あるよ。あるある。そもそも町内で一番偉い人が町内代表みたいな顔して市全体のトップに座ったりしてんのいつの時代よっていっつも思ってるよ」

「なんか公共放送で流しちゃいけない細かさの話なりそうなんで修正していきましょうね」

「うん。ところで、建物を保存していくにあたって、歴史的価値を理由にしてる物ってさ。どこまで手を入れていいものか問題、あるわよね」

「ええ、手を入れていいんですか? そもそも」

「入れざるを得ないのよ。昔の建物って、今の耐震基準とか関係なく建ってるからさ。見学施設として残すにしたって多少の手入れはやんなきゃマズいの。お城とかそうでしょ?」

「ああ、確かに。なんかバリアフリーのためにエレベーター設置しろって話ありましたよね」

「あったね。だからそこよ、耐震改修や、中の素材の劣化修繕、急な階段とか、あと地味にトイレね? その辺どこまで手を入れるのが許されるかって、考えなきゃいけない問題だよなーって」

「因みになんでその話し始めたんですか今」

「あたしの地元の空き家の話ね? 建物に価値があるとか言いながら、入居する会社募集! とか書いてたの見て二度見したわ」

「分かるような、古民家カフェ存在してるから分からないような」

「そうそう! 古民家カフェは許せる自分もよく分からない。だから、結構曖昧な基準だよなーって」

「そもそもなんですけど、古ければ価値があるって考え方は何処から来てるんでしょうか?」

「そういう風に考える人でしょ」

「曖昧!」

「まいん!」

福原遥ちゃん、可愛いですよね」

「女優でありながらオタクにとってのスターでもあるというね」

「で?」

「あー、価値観なんて人それぞれだからね。そもそも冷静に、あくまで論理的に考えればさ、物の価値は役目を果たすことに尽きるのよ」

「こっから哲学の授業というわけですね」

「そうそう、上崎哲学ね。茜テスは言ったわ、むちむち、と」

「はいはい」

「ねえ知ってる? ボケ役はね、ツッコミがいて初めて存在価値を得るんだよ。話を戻して、物の存在価値、役目ね。はさみは物を切ることが役目、だから、切れ味が悪くなったら価値はない。コップは液体を溜めるのが役目、だから底に穴が空いたら価値はない。建物の役目は、中の人や物を守ることで、古くなって中に危険が及ぶようになったならもう価値はないんだよ」

「でも、それこそ文化遺産というものもですけど、見てもらうことに価値を得るものもありませんか?」

「あるね。でも今言った通り、価値を得たわけでしょ? 元々の役目とは別の役目を与えることで、価値を得たんだよ。切れなくなったはさみをぶっ壊すことで素材としての価値を新たに与える。そこが抜けたコップを逆さにしてランプに被せてインテリアにする」

「コップの例は微妙では」

「微妙でもいいってことよ、価値を感じればね。ただここに、保存にかかるコストが絡んでくるとちょっと面倒になる。古い建物も、別に見学資料としての価値でも別にいいのよ? 保存コストの元を取れるなら。それ以上の価値であると言えるなら」

「やはり世界はお金なんですね」

「お金というか、価値の比較でしょ。お金だって価値よ、というより、物質化された価値そのものよ。だから、コストとしてかかるお金、価値を、保存した結果生まれる価値が上回れるかを考えてから喋るべきなの」

「そんなことも考えて物を喋れないのか老人どもは、という高度な罵倒ですね」

「高度かどうかは諸説あるね」

「分かったような、分からないような。結局僕が古さに価値を感じていないから、そっちの立場になりきれていないのかもしれません」

「あたしだってわかんないよ。新しいほどいいに決まってんじゃん」

「思い出補正とか?」

「それは大事だけど、物質として残す必要ある? 写真でいいし、残すんならてめーで金出せやってね。出すなら文句はないわよ」

「言葉、荒れてますよ」

「あらやだ、うふふ」

「古いからと捨てたら物が可哀想、みたいな」

「あっはっは、感情が無い物とか、何考えてんのか分からないペットだとかに、勝手な想像で感情を載せるのは人間の悪しき風習よね。あっはっは、馬っ鹿じゃねーの、あっはっは」

「言葉」

「物が悲しんでんじゃないわよ! 悲しそうだなーっていうお前のエゴの押し付けだろうがよーっ!」

「なんかトラウマでもありました?」

「論理的思考が絶対だとは言わないけど、全く外れた主張されんのもそれはそれでストレスなんだよ。そして、そういう人って、いるんだよ」

「大して懐いてない飼い犬にアテレコするタイプの人ですね」

「わかるー。脳波の計測とかしてんじゃなければ動物の感情なんてわかんねえっつーの。まあ、生物に関しては経験則とかも効きそうだけど」

「そんな感じで後味の悪いまま本日はお時間です」

「あたしはスッキリしたけどね!」

「未来と書いてあすと読むさん、すみませんこの番組で悩みの解決は無理です。が、愚痴ならいくらでも聞きますし、こっちも言いますので。ストレス発散がしたくなったらまたおたより送ってきてくださいね! それではまた」

「どんどんアンダーグラウンドなラジオになっていくな、まあいーけど! そんではばいなーら!」

 

(ED)

(曲)「番組テーマソング(神田沙也加)」

 

 

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