ポっと出に敗れる

「ふわふわラジオ」を連載しています。

第十四回ふわふわラジオ(3)

 

 

 

「我儘トークは一旦置いといて、転職ってものを話したいんですけど」

「ほう?」

「転職って滅茶苦茶勇気要りますよね」

「まあ、そうね。絶対そうね」

「僕たちのような人間にとっては、特に」

「僕たちのような?」

「こう、レールの上をその通りに歩いてきたと言いますか、寄り道しないで人生来ちゃった感じと言いますか」

「あー、言わんとしてることは分かるかも」

「自分の頑張りもありましたし、それ以上に周りに恵まれていたことで。小・中学校を出て普通科の高校に入り、浪人することなく大学を4年で出て、一般的な企業に就職した人たち。これを言い換えてしまえば、今後の人生を大きく変えるような決断を避けられちゃってた人たちでもあるんですよね」

「これが駄目だったら大きな決断をしなければならない……を、駄目じゃなくて決断しないで来ちゃった人たちね。あたしもそのクチだよ」

「なんというか、イチかバチかだったことがあまりないんですよね。これはとても恵まれていることだと思っていますが、逆に言えば親の庇護下、なんとか取り返しのつくレベルでの失敗経験を積めなかった人間とも言える」

「わかるー。無理よね、人生最初の選択がいきなり働き口とか、その先とかさ。夢を追って不安定な道にいきなり挑めはしないわよ。だってこの先はあたし自身の力と責任で、生きていかなきゃいけないんだもの」

「高校、大学選びをもっと真剣にやってれば違ったんでしょうかねえ。僕は成績も平均的な位置だったんで、どちらにしろ選択肢そんなに多くありませんでしたし。当時は明確な夢が無かったので、専門学科のある所を探したりもしませんでしたから」

「あたしの地元はそもそも高校が多くなかったからね。普通科で、大学に行きたくてって時点でほぼ決まってるようなもんだったな」

「今も似たようなもんではありますけど、遊び盛りの当時の僕らは、勉強やそれにつながる物事に使う時間なんて無いようなものでしたから。取り敢えず、周りに遅れず進学できさえすればそれでよかった」

「何人かいた、その時点で将来をしっかり考えてる友人たちが別の生き物に見えて不思議でしょうがなかったなー。でもあっちこそが正しい在り方で、あたしたちが甘いだけだったと今は分かるよ」

「だから、サザンやこの曲が素晴らしいもそうですけど、人生30年さんこそが僕たちにとっては眩しくて、かっこいい存在ですよね、一番」

「30年そうやって生きてきた在り方を変えるってのすごい挑戦だよねー」

「ちょっとくどくなっちゃいますけど、今、自分の普段の生活も思い返してたんですよ」

「うん?」

「例えば仕事のやり方一つとっても、すごい細かく確認しちゃいません?」

「あー分かる。お前のやり方でやっていいよ、って言質とってない限りは逐一確認するわあたし」

「このやり方でいいですよね? これでやっていいですよね? って、一つの仕事に関して5回は上司に確認しますね。すげーしつこい奴だと思われても、やらかすより100倍いいですから」

「もう怒られるのが恐いとかじゃないのよね。やらかし、それ自体が恐怖そのものなの。失敗をする自分が無理なの」

「という、日常的に挑戦を避けて生きてるなー僕と、今ふと思いました」

「今日、冒頭でオリンピックの話題出して、それ以降ご時世的な話してなかったじゃん?」

「ああ、そういえばそうでしたね」

新型コロナウイルス……未来の世でなんて呼ばれてるのか知らないけど、これでほぼほぼあらゆる民間企業が自粛だのテレワークに強制移行だの、なったじゃん? その時あたし、ああ、あたしは何も間違ってなかったと思ったんだよね。安定をとってよかった、と」

「就活というか、仕事選びに関してですね。でも言うて上崎さん、公務員ではないじゃないですか?」

「うん。いやー、ここで公務員以外の道を選んだのがあたしの人生最大の冒険だと思うよ。それでも一応公的機関に次いだ老舗、生活に密着してるから需要が無くなりにくくて、業績が安定してるとこではあったからさ」

「まあ僕も、自分の考えていた将来像の中では一番無難で安定した未来を選んだクチですけど」

「前にも言ったかもしれないけど、あたし、一番興味ある分野はエンタメ系だったのよ。イベント会社とか、制作とか、夢と云うのはそっちばっかりだった。けどね、うん、業界の人達には本当に失礼ながら、そういう仕事選ぶ人たちは正気じゃないとすら同時に思っててさ」

「特定の誰かを貶める意図のある発言ではありませんからね! 決して!」

「本当に、感情的に言えば本当に、なくてはならない分野ではあるのよ。けど生命活動に直結してる仕事ではないから、人類の危機に瀕した時無くなる順番はきっと早いほう。その時に食いっぱぐれるリスクをあたしは取れなかった」

「人類の危機に食いっぱぐれの心配とか考えすぎ、って笑いたいのにここ2年のことを考えると笑えませんね」

「でしょ? 少しでもリスク低く、例え日々の仕事の時間がずっと苦痛でも、お腹を満たして快適な部屋にいて、趣味にも使えるお金がもらえるならそっちを選ぶ。もう信念だよねこうなると。だからこう、リスクをとってでも自分の望む道を進んできた人たちが、いざという時特に我儘に見えちゃうのはあるな」

「特に今回は、政府からの補償が出ない自粛要請だの、多かったですからね。大体は、ほんとはみんなの主張も当然の権利なんですけどね? 例えば災害への補償だのを含めて、それを前提に仕事を選んできた人たちなんですから、ちゃんと保証しろって言うのは図々しいわけじゃない」

「それに、夢を叶えた人たちだって、その道にはその道の苦労があったことも間違いないのよね。心も体も、その苦労に耐えてきたからこそきっと夢を叶えられたんだろうし。そう分かっていても……いざという時の安心を求めるなら、どうして公務員やインフラ、無くならないような仕事を選ばなかったの? とつい言いたくなってしまうのよな」

「或いはこれこそが、僕らの我儘なのかもしれませんね。いざという時の為に、僕らは日々の仕事の喜びを捨ててでも、安定した仕事をこなしてきた。そのいざという時が来たのだから、日々の仕事の喜びを選んだはずの人達は僕ら以上の苦労をしてほしい、という傲慢な我儘」

「口に出しちゃうと本当に醜い感情だけど、これは確かにある。けどまあ、先に言ったように……人には人の苦労があって、物事にはいろんな立場の人が関わっているから、優しさと思いやりを全員が持っていかなきゃいけないわね」

「そうですね」

「まとまった? なんか、転職とはちょっと違う結論に辿り着いたけど」

「いいんじゃないでしょうか」

「えー、一応注意。こちらも繰り返しだけれど、あたしも柴山さんもふわふわした知識でこのラジオのトークを進めているからね」

「子育ての経験も移住の経験も、転職の経験もないですからね。マジで無責任だな僕ら」

「だから、話半分というか、こういう意見の人もいるんだなーくらいに聞いていただけると助かります。そんな感じで、次回もお話していこうね!」

「それではまた来週!」

「ばいなーら!」

 

(ED)

(曲)「番組テーマソング(Mrs.GREEN APPLE)」

 

 

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