第七回ふわふわラジオ(3)
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柴「さて、プロセカのネタバレしていいですか」
上「突然何? 程々にね」
柴「程々にならいいんですか……とはいえ話の流れ的に必要なので、失礼して。とあるチームがプロの世界を目指して音楽活動を続ける決断をしたわけですが、上崎さんはそういうの無かったんですか? 歌手にしろ、他の何かにしろ」
上「まあ今までのあたしの話を聞いてもらっていれば分かる通り、無いね」
柴「なんか言ってましたっけ? 僕さっぱり覚えてないでーす」
上「壊れた機械は叩けば直る、思い出すまで殴って差し上げよう」
柴「暴力はんたーい! まあいいからほら、話の流れ、話の流れ!」
上「くっそう魔法の言葉め! いやだって、まずあたしは広く浅くタイプだから。プロってのは、それに全てを捧げる仕事のことでしょう? 憧れはかなりあったけど、具体的な進路の選択肢としては初めから無かったな」
柴「全て、というのはちょっと極端な気もしますが」
上「全てだよ。全てを捧げている競争相手が一人でもいるのなら、自分も全てを捧げなきゃ勝負にならない。別にそれは、スポーツとか、大会で1位を目指すジャンルに限らないと思うんだよね。誰にも負けず、昨日の自分にも負けない毎日を覚悟することが、イコールでプロを目指すってことだと思ってるから」
柴「うーん、まあ、一理ありますね。人によって価値観は違うでしょうが、上崎さんの言い分もすごく理解できます。でも、仕事はしなければいけない。やりたいことがどれだけあって、全部を触り程度に楽しんでいたいとしても、どう足搔いても仕事が人生の時間の3割近くを占めるのは避けられない。というかお金を稼がないと好きなこともできない……そこからは、どういう基準で選んでいったんですか?」
上「まずはそれこそ、好きなことに関わる仕事を考えたよ。具体的には音楽業界、出版業界、イベント全般だね。でもさ、そもそもそういう業界ってこう、結構ね……黒色の側面がね。調べた限りでは、だけどね」
柴「おおう」
上「しかも、会社が悪くて黒いというより、裏方の性質上黒い感じというかね? 表で光を浴びる人を支えるのが仕事なとこあるから、表の人が終業時間ぴったりで来て帰るとしても、裏の準備はそう上手くいかないんだよね。」
柴「あー、それはわかります。そこまで極端ではないですが、うちみたいなラジオ局とかテレビ局もそういう側面があります。部署によりますけど」
上「あたしはそもそもプライベートな時間重視、そこが削れるのは論外なのでそれも割と早い段階で選択肢から消えたよね。するとこの時点で、仕事内容はある程度諦めざるを得なかったわけだ」
柴「優先順位トークですね、仕事内容を諦めてでも待遇を取ると。もう優先順位ラジオに改名しますか」
上「リスナーの中でそのラジオの優先順位低くなりそうだからヤダ。こんなラジオ聞いてる暇あるのか? おん? みたいな煽りを幻視したよ」
柴「流石に幻ですねえ」
上「となると、どうせ仕事内容を妥協するくらいなら、下限まで内容の条件切り詰めてでも待遇のいいところに、となるわけですよ」
柴「まあそこは上崎さんらしい割り切り」
上「で、重要なのは安定性。できれば終身雇用に近いところ」
柴「昨今の若者としては割と珍しいんじゃないですか? 終身雇用希望って」
上「仕事内容を諦めたことで、あたしの人生において仕事というものの重要性は地の果てまで落ちたわけだよね。つまりは仕事に割く時間の全てが無駄な時間」
柴「それはちょっと極端すぎでは」
上「まあ、この辺はそれぞれの価値観だよね。つまり、万が一退職や転職をしたいとなって、次の仕事に向けて就活をする時間、仕事を得るための勉強の時間、将来に対する不安で悩む時間。このすべてが邪魔なわけですよ」
柴「だから、それら全てが発生し得ない終身雇用?」
上「そういうことだね。転職は本人次第だから、その他の二つを可能性ごと消し去れる」
柴「そうなると最強は公務員では?」
上「公務員は意外とヘビー残業だから、ソースは先輩」
柴「クソ職業じゃないですか」
上「ってことで、条件に合う仕事を探してたら……全然見つからなくて」
柴「まあ一般的にはそれ『わがまま』ですからね。条件多すぎ」
上「奇跡的に見つけた、というか地元の先輩からの紹介で知ったのが今の職業なんだよね。仕事内容の基本が派遣、清掃業務とか汚れ仕事に、力作業から単純作業。あとはイベントのスタッフ補充とか? 何でもやる代わりに、就業時間だけはきっちり守られてて、派遣先の都合でそれ越えたらその分休みがついて。給料も高くは無いけど昇給が保証されてる、会社が潰れない限りは終身雇用と正直ぴったりの条件だった」
柴「いやあ、なんというか、よくそんな所がありましたね」
上「小さい会社だから、社長や幹部と話す機会もあるんだけどね。なんか、あたしと似たような考えながら、起業からの失敗が怖くてなかなか決断できなかったと。そんな考えの人がたまたま何人か同時に知り合って、勢いで立ち上げた会社だと」
柴「一気に心配になったんですが。大丈夫なんですかそこ?」
上「赤信号、みんなで渡れば、怖くない?」
柴「法的にもアウトじゃないですか」
上「まあそれは冗談だけど、意外と理に適ってるというか。残業原則廃止、あってもその分休ませる方式だと、毎月の人件費にほぼ変動が起こらないからやり易いんだって」
柴「あーそれはあるでしょうね。残業代で1.25倍とか常に払ってるの、もう一人雇ったほうが絶対安いやん案件ですもんね」
上「みんなが一番嫌いなものは無償ボランティア」
柴「あれね、善意から無償でボランティア活動する人も悪いと思うんですよね。労働には対価を払う、この原則を世間の当たり前にしていかないと、あなたのせいで、稼ぐ機会を失ってる人もいるんですよと言いに行きたい」
上「何の話だったっけ?」
柴「上崎さんはプロを目指さなかったんですかの話から、ただもうどっちにしろ時間ですね」
上「えっやべ、もう残すところ10カウントじゃん。おたより待ってます! ばいなーら!」
柴「尻切れトンボ……皆さん、また来週もお会いしましょう!」
(ED)
(曲)「番組テーマソング(Mr.Chidren)」
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